映画『モールス』感想 - 吸血鬼と人間の共生

 

モールス (字幕版)

モールス (字幕版)

 

  ちょっとグロめの吸血鬼のお話。人間が寝ている間にちょこっと血液をいただくような紳士的なやつではなく、肉ごと貪り喰らう残酷な不老の存在として描かれています。

 吸血鬼役の少女(実はババア)を演じるのは、『キック・アス』シリーズなどで有名なクロエ・モレッツ。真冬のニューメキシコを舞台に、残酷かつ美しい少年少女(ババア)の物語が描かれます。主人公のオーウェンは、学校で上級生からいじめを受けているおとなしい少年。母親と二人暮らしの彼の近所に、神秘的な雰囲気をまとった少女(アビー)が引っ越してきます。少女は父親らしき男と二人で越してきたようですが、何か秘密を抱えている模様・・・。といった感じで物語は進行していきます。

 雪深い田舎町という閉鎖的な環境のもとで、学校にも居場所を見いだせない彼の目には、どこかこの世のものでないような雰囲気を漂わせる少女は、なんとも目の離せない魅力を放っていたことでしょう。一方の少女も吸血鬼であり、目立たぬように生活することを強いられる状況。孤独感に苛まれる二人は、自然と仲を深めていきます。

 物語のなかで、少女と共に越してきた男は父親ではなく、彼女の恋人であったことが推察されるわけですが、老いることのない恋人の隣で、一人年老いていく男の絶望感は相当なものであったことでしょう。生存のために多量の血を必要とするアビーにとって、人間に目をつけられずに生きていくには、人間の協力者が必要不可欠です。自分のために多数の人間を殺し、その隠蔽を行うことに身を捧げるという行為は、愛を通り越して狂っているとしか言いようがないでしょう。

 初まりは恋や情愛であったかもしれませんが、そのような生活を長年続けていくうちに、二人の関係が徐々に変化していったであろうことは容易に予想できます。男は最後までアビーの身を案じ、自らの命を絶つまでに至ったわけですが、そこには愛する者のための自己犠牲だけではない、何か義務感や脅迫感のようなものものに突き動かされているような印象を受けました。アビーと共に生きていくことは、人の道を外れるということであり、愛だけでは語り尽くせないものがあっただろうと考えられます。

 アビーに恋をしてしまったオーウェンも、彼女と共に生きた男の結末をおおむね理解していたはずです。それでもなお、アビーと二人で生きていく決意をしたオーウェン。彼は、最後いじめっ子に襲われ命を落としかけたところをアビーに救われるわけですが、彼の心には人智を超えた存在に対する畏敬の念のようなものも芽生えていたのではないかと思います。自分が置かれていた逃げ場のない状況を、圧倒的な力で蹂躙していくアビーの姿を目の当たりにした後に、対等な立場で恋愛関係を維持するというのは少し考えづらいようにも感じられます。

 吸血鬼には一種の催眠のような、人を魅了する能力があるとする伝承もあるようです。オーウェンや、アビーの為に命を落とした男もまた、自発的に彼女と生きていきたいと考えるだけでなく、彼女の暗示にかけられ虜になってしまったのではないか、などと考えてしまいました。オーウェンは彼女に恋をしていただけでなく、彼女無しでは自分は生きていけないとでもいうような心理状態にあったのかもしれません。

 オーウェンや彼女に身を捧げた男は、孤独で口が固く、アビーにとって寄生するにはもってこいの人物像といえるでしょう。綺麗な面だけを見れば、誰にも離せない秘密を抱えた共に抱えた禁断の恋のようでいて、実態は異生物同士が生き抜くために共生関係を築いているだけ、というような見方もできるのではないかと思います。

映画『モールス』予告編 - YouTube