映画『花とアリス殺人事件』感想 - 思春期の可笑しさと哀しさ(ネタバレあり)

 

花とアリス殺人事件

花とアリス殺人事件

 

概要

  まずはじめに、先に実写版の『花とアリス』を観た方には言うまでもないと思いますが、殺人事件なんて物騒なものは起こりません。物語の軸は、主人公の一人である花が起こした小さな事件を、殺人にも近いような罪深いものだと思い込むことにあります。彼女が犯した罪は、想いを寄せていた男子(ユダ君)の背中に蜂(おそらくミツバチ)を入れるという、ただのイタズラです。彼女は蜂の毒でユダを殺してしまったと思い込み、罪悪感やらなんやらを拗らせ、引きこもりにまでなってしまいます。挙句の果てに、花がいたクラスにはユダ殺人事件という謎の都市伝説が跋扈するようになりました。

 思春期特有の、何でもない事件を世界の破滅のごとく重大に捉えてしまうことから生じるおかしみと、それをただ茶化すだけでなく、小規模な事件に思い悩む本人の悲痛さも同時に表現していて、製作者の温かく優しい視点が感じ取れました。ある意味親目線とも言えるかもしれませんね。

 話の筋自体は特段ドラマチックなものではないですし、オチもまあそんなもんですよね、というようなものなのです。しかし、随所に織り込まれたユーモアや、独特のテンポの掛け合いによって、視聴者を飽きさせない作りになっています。ロトスコープという実写の動きを活用したアニメーション製作の手法も、一般的な日本のアニメーションでは難しい、細かいキャラクターの動作によるボケが作品の面白さに非常に貢献していて、監督のセンス最高だなあと思わずにいられない作品でした。

 

魅力的な脇役 

 個人的にお気に入りのキャラクターは、アリスの同級生、陸奥睦美(ムツムツミ)。名前の響きもなんだか面白い(同じ名前の方がいらっしゃったらすみません)。

 彼女は当初クラス内でいじめを受けていたのですが、いじめに耐えかねた彼女は、授業中に突然、殺人事件の被害者であるユダの霊が降りてきたという演技を披露。それに圧倒されたクラスメート達を洗脳するというアクロバットプレーにより、クラスの支配者としての地位を確立します。嘘の降霊術にあっさり騙される同級生もなかなかのものですが、失敗すればさらに立場を悪くするのを覚悟で、一世一代の大勝負を仕掛けたムツムツミも大したものです。失敗したら登校拒否すればいいかと思っていた、とあっけらかんと語る彼女。大物です。アナフィラキシーアナフィラキシー

 いじめられっ子というのは萎縮してしまってなかなか大胆な行動をとることができず、それが虐められる立場の固定化につながるという悲しいループが見られることがありますが、彼女の開き直りはそこから抜け出すうえでの素晴らしい作戦だったのかもしれません。現実に真似しようとするのはあまりオススメできませんが。あとアナフィラキシーは毒ではなくアレルギー反応のことです。

 ムツムツミだけでなく、アリスの母親やムツムツミに襲われ失禁してしまった男子など、ちょっとした脇役の面々も、会話の端々からキャラクター自身が備えている魅力が湧き出てくるようでいちいちクスリとさせてくれます。声優の方々もコミカルな部分はややオーバーに、平時はアニメの声としては抑え気味の演技が作品の雰囲気とマッチしていてうまいなあと思いました。

 

 いじめや不登校・引きこもりなど、描き方によってはいくらでも暗くなりうるテーマを採用しながらも、温かい人の交流が感じられる作品になっているのは、アリスというアホっぽさとサバサバ感を兼ね備えた狂言回しの優秀さゆえかもしれません。ラストシーンで本編『花とアリス』につなげる演出も素敵でした。

映画『花とアリス殺人事件』予告編 - YouTube